灰色の手帳 由香里 ―水底から― 第十三話『貪られる少女の肢肉 ――豹変――』

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2011 / 06 / 11  Sat
由香里Ⅰ   
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 それから由香里は、魔法に掛けられたように、先輩に従順になった。手のひらサイズの小さな機械に納められた画像が、先輩と由香里の立場を決定付けた。――いや、既にそんなものは決まりきったことだったのかもしれない。

 先輩はいともあっけなく、由香里のジーンズを剥いでいった。由香里もまた、麻酔を掛けられたように、ただ横たわってそれを受け入れた。ジーンズが足首までずり下げられると、由香里は発作的に足を上げ、結果としてその動作が、ジーンズから足を抜く先輩の仕事を助けた。ジーンズが足首に溜まると、先輩はスニーカー、それから靴下を脱がした。
 一拍置いて、ジーンズを抜き取りにかかる。左足から完全に抜き取られ、ジーンズは右足に引っ掛かるのみになった。
 先輩はジーンズを握ったまま中腰になって、仕切りの上から店内の様子を見回し、安全を確かめると、ジーンズから手を離す。ジーンズは完全に由香里の右足首に委ねられた。
 由香里はかたく瞑った瞼を弱める。先輩は賢明に冷たい目を装っていたが、口元の端は内情を隠しきれず、吊りあがっていた。

 胸に広がる怒り。嫌悪。哀しみ。

 溜め息を吐きながら、由香里は足を屈伸させ、小さく揺すった。

――悔しい……。

 ジーンズの感触が体の一切の部分からも遂に消えうせたとき、心の中で小さく呟いた。目には涙を、口元には子供がベソをかいたような、諦めが漂う笑みを浮かべて。

……ああっ。
……やっちゃった。

 解放感が足首を一瞬喜ばせた。それは大腿を一気に駆け上り、やがてぬめぬめとした空気に変わり、下半身全体を覆った。

 羞恥。しかし不思議と心地よい、羞恥。
 顔に浮かべた恥じらいの表情は、恍惚のそれにも似ていた。
 とうとう、下半身が完全に剥き出しにされたのだ。自分の今の格好が、信じられない。静かに目を閉じると、涙が瞼を熱くした。興奮が体中を駆け巡る。息が苦しい。由香里は泣きだしたい衝動に襲われる。

 気持ち良い。心からそう感じていた。恐怖や羞恥心が消えたわけではない。しかし下半身が正真正銘の裸になったとき、それも自らの意志によって最後の衣服を脱ぎ捨てたとき、自分を追い詰めていた何かがその存在感を弱めたのだ。

 耳元に何かが近づいてきた。一瞬、耳たぶに柔らかい感触。先輩の唇だと気付いたとき、由香里のアソコがぴりぴりと痺れた。むらむらと滾るものを必死に堪える。

「よしよし」

 先輩が囁いた。薄く瞼を開く。湿った目元を、先輩の柔らかい指が拭った。
 羽毛でなぞるような、優しい手つき。
 しかし口元は醜く歪み、あからさまに由香里を侮蔑していた。
 
 先輩が、ヴァギナを、指で愛撫し始めた。

 火のように沸き起こる感情から、発作的に、足で先輩のにやけた顔を蹴った。
 驚くような素早さで、由香里の両足首が掴まれた。

 先輩は由香里を睨み付けた。さっきまでの偽りの優しさは消え、いつもの、敵意を剥き出しにした先輩の表情だ。
 果敢にも、由香里もまた先輩を睨み返した。それにつられたように沸き起こる、誇りと勇気。

 しばらくの間睨み合いが続くかと思われたが、あっけなくも、すぐに先輩は目を逸らしてしまった。
 そして、そのことによって勝負はついたのだ。
 先輩が視線を逸らした先……折りたたまれた足の付け根。尻の窄まり。

 思わず下半身に力が入る。肛門をぎゅっと締める。
 先輩が足首を押し上げると……その穴は先輩の顔を仰ぐように上を向いた。

 精気を奪われるような、活力を吸い取られるような感覚。
 声にならない声を挙げて、由香里は腹筋に力を込めると、その場所に飛びつくように両手で塞いだ。

 夢中になって首を左右に振り、降服を示したが、先輩は恥辱のポーズを取らせ続けた。
 手のひらに触れるアヌスのじめっとした、熱い感触。

 ――やだ……やだ……私……私……。

 火花のように沸いた戦意は儚かった。べそを掻きながら見上げた由香里に、先輩は優しくにっこりと笑うと、ようやく足首を離し、身を乗り出した。
 赤ん坊をあやすように頭を撫でながら、つぶやく。

「これじゃまるで赤ちゃんね、由香里ちゃん」

 そして再び手を伸ばすと、由香里の涙を拭う。もはや由香里は抵抗しなかった。手を顔の横にだらしなく置いたまま、その悪意に満ちた優しさを受け入れ、罠の潜む一時の快楽に沈むことを選んでいた。

 由香里は、勇気を振り絞って笑って見せた。先輩も、微笑みで応えてくれる。胸に広がる、暖かい気持ち。涙がとめどなく零れる。

「上も脱ごうか」

 それがもはや何でもないことのように、飄々と先輩は言った。一瞬、躊躇する。先輩の、優しい愛撫。口元に隠しきれない侮蔑の笑み。相反する二つの挑発に、由香里は混乱した。

 しかし、誘惑には勝てなかった。由香里は黙って頷いた。

***

 由香里がシャツを脱ぎ始めると、先輩は由香里から離れてスペースを作った。もう束縛する必要は無いという判断から、そうしたのだ。
 完全に服従させられたことを示すその余裕は、由香里に微かな屈辱を与えたが、同時に、そんな僅かな屈辱とは比較にならないほどの解放感にも包まれていた。

 あっと言う間に、由香里は素っ裸になった。それはいともあっけない一瞬の出来事だったが、シャツから腕を引き抜いたとき、何かを責め立てるような胸の鼓動の急速な高鳴りと同時に襲ってきた、正体不明の凄まじい喪失感には、酩酊状態にあった由香里もさすがに怯んだ。

 頭から爪先まで、一糸纏わぬ全裸の少女は、はあはあと吐息を震わせながら、じっとりと熱く湿った眼で、支配者を見つめる。今ではもう、目の前の人に”反抗”するだなんて想像することもできない。
 裸にされることが、こんなにも人間を弱気にさせ、卑屈にするなんて……由香里は驚いていた。

 自分と比べると、衣服を当然の権利のように軽々と纏った先輩は、偉大で、強くて、抗いようの無いもののように思えた。由香里が先輩に服従することは、むしろ当然のことのように感じられた。

 由香里は求めていた。柔らかい羽のような、先輩の指先の感触を。遠慮がちに広げた足の間に秘めた、うっすらと茂ったなだらかな丘に。
 しかし、由香里が次に感じ取ったのは、期待していたものとはかけ離れた、臀部を鷲掴みにされる感触だった。

 さっきまで由香里を優しく愛撫していた手と同じとは思えない程の、力強い感触。まさにそれは、水を掴み、プールを引っ掻き回すかつてのエースの手だった。その大きな掌は、男の手すら想起させた。
 肉に食らい付く禽獣のような。

 由香里は捕食されているのだ。

 頬がみるみる赤らむ。しかし、何故赤くなるのか、分からなかった。

 先輩は愉悦の笑みを浮かべながら手に力を加えて、お尻を掴んだまま宙に引っ張りあげる。その握力を前にすると、由香里の腰骨など木の枝のように華奢に思えた。

 先輩が言った通り、今の私は赤ん坊同然だ……。

 少女が闘いの日々から逆行し、全てから解放された姿だった。由香里は涎をたらした。赤ん坊になりきろうとして歪めた白痴の顔を先輩に晒した。そうすることでより惨めな気持ちになり、同時に救われた。由香里は、先輩の魔術に完全に陥っていた。自らを辱めさせるという、凶悪な魔術に。
 幸福だった。今までの憎しみあっていた関係を解消され、先輩から愛情を受けているような錯覚に、それが錯覚と知りながら、心酔していた。

「由香里」

 囁くような声音に、耳をくすぐられるような快感を得る。

「あなた、私の奴隷になりなさい」

 奴隷……。
 その言葉に由香里の胸は高鳴った。恐怖からではなく、喜びからだ。由香里は恍惚とした表情のまま、頷いた。

「じゃあ最初の命令。次の練習までに、ここを剃ってきなさい」

 そう言って先輩は由香里の陰唇を撫でた。由香里は体をくねらせて、喜ぶ。同時に、次の練習、というフレーズに、言い知れぬ不安を感じていた。そうだ、先輩による支配は、これからも続くのだ。

「分かった?」

 先輩が指先でアソコをより激しく撫でる。あまりの気持ちよさに、思わず声を漏らしそうになる。背中を仰け反らせて、痺れるような快感に身を浸らせる。
 しばらくの間、先輩による由香里の体へのからかいは続いたが、ふいに指の感触が消えた。熱い息を吐きながら、由香里は薄く目を開けた。
 先輩が指先をハンカチのようなもので拭っていた。拭い終わると、鞄に手を伸ばした。

――帰ろうとしている。

 そう察するが早いか、咄嗟に、由香里は足の指で先輩の服を挟み、引き止めるように引っ張った。

 先輩が熱の無い眼差しで、由香里を見下ろした。由香里は、唇を尖らせ、拗ねたような潤んだ目で、訴えた。

――見捨てないで…。

 由香里は、まだ果てていなかった。先輩のあの羽毛のような指先が、連れて行くことの出来る限界のところまで、導いて欲しいと思っていた。理性を完全に奪われたかった。そしてそのときの表情を、先輩に見てもらいたかった。そうすることで、先輩との間に、何か心強くて暖かい結びつきが生まれるような気がしていた。

***

 由香里は、この屈辱的な快感に浸っていたかった。もはや苦痛を紛らわせてくれるのは、苦痛そのものだったのだ。先輩が去り、この場に一人にされるなんて考えられなかった。熱が引き、理性が蘇ったとき、かつてのそれとは豹変してしまった現実に一人で突きつけられるなんて……。
 由香里には、堪える自信が無かったのだ。

 そのときだった。先輩の手が、すっと伸びた。
 由香里は眼を瞑った。
 ところが期待とは裏腹に……鋭い痛みが由香里を襲った。

――痛い……!

 先輩に、髪を掴まれたのだ。力任せに、ぐいぐいと、上に引っ張る。そこには、さっきまでの生優しさなど、欠片も感じられなかった。
 由香里は引き立たされると、そのまま髪をリードに、引きずられるように歩かされた。髪が前に引っ張られているため、自然と俯くような格好になる。当然前は見えないが、自分がどこに向かって歩かされているかは明らかだった。
いや……!
 階段に近づくにつれ、パニックは加速していく。しかし、それを押さえ込む程の強さで、先輩は力任せに由香里を引きずっていくのだった。
 頭皮ごと引きちぎらんばかりの勢いで、先輩が由香里の髪を引っ張った。激痛のあまり、由香里はとうとう声を出してしまった。

 進路の先から、階下の騒がしいBGMと、客達の笑い声が聞こえた。

 とうとう、曲がり角にやってきた。
 階下の人たちの声が、どっと大きさを増した。

――いや……。いや……。

 先輩は渾身の力で由香里を曲がり角から引きずり出すと、今度は、由香里の頭を思い切り押した。
バランスを崩した由香里は、後ろによろめいた。立て直す間もなく、更にもう一押し――。
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