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遠く、蝉の声を聞いていた。由香里は、カーテンも部屋の扉も締め切って、掛け布団の上からうつ伏せになっている。
昨日の疲労は、まだ抜けきっていないようだった。
――たまには体を休ませてやることだって必要だよね。
そう自分に言い聞かせても、練習を休んでしまった後ろめたさ……いや、あの人達から逃げてしまった後ろめたさを、誤魔化すことなど出来なかった。
意地汚い先輩達の中でも、
楠田理恵子は特に性質の悪い人だった。
楠田先輩は由香里の一つ上、高校三年生だったが、年齢よりもずっと大人びて背も高く、その圧倒的な存在感の源は、すらりとした肉体と、生まれ持った美貌にあった。
女優のように力強い、大きな目、ぴんと張った鼻、形の整った、赤々とした唇。
そして何といっても、その白い肌理細やかな肌と、長身に合わせるかのように肩甲骨まで真っ直ぐに伸びた、艶やかな黒髪……。水泳部員の殆どが、水の抵抗を受けてタイムの落ちるのは嫌だからと言っては、髪を短くしたがる中で、一際目立つ。
水泳の成績も良かった。いや、抜きん出ていた。だからこそ、長髪や、彼女のきつい性格は許されてきたと言えるだろう。彼女は水泳部の
部長であり、同時にエースだった。名実ともに、彼女こそ桂木女子学院水泳部の頂点だったのだ。そう、二年前、由香里が現れるまでは……。
由香里は浴室へ向かった。
縦長の鏡の前に立ち、さまざまな方向から自分の顔を眺める。
美貌に関しては、由香里も楠田先輩に負けていない。やはり由香里も、先輩に劣らぬ肌理細やかな白肌と、長い美しい黒髪を持っていた。その点では二人は双子のように似ていて、
背中を向けて遠くから見れば、先輩と由香里を見間違えることすらあった。しかし由香里の顔つきは先輩より幾分幼さを残し、瞳も力強いというよりは、吸い込まれるような静かさを湛えたものだった。鼻は先輩ほど高くは無いし、唇も淡いピンク色をしていて、先輩のような派手さは無い。
柔らかい月の光のような美少女。
多くの美女の例に漏れず、由香里は自分の美しさを十分理解し、それなりにうぬぼれてもいた。
少女は鏡を観察した。
――昨日の出来事が、自分に何か変化を与えてはいないだろうか……。
しかし、鏡に映った自分は、いつものままだった。
シャツを脱ぎ捨てる。汗でほのかに張り付いた布地が剥がれていく。
ブラに覆われていない、むき出しの胸が露わになった。
次に、ジーンズのファスナーに手を掛ける。少女の腰は、拘束から解放され、ジーンズは、少女の大腿との僅かな摩擦に引っかかるだけになった。鏡の目にやると、開けたファスナーの間に、白い肌と、柔らかな毛を見た。少女は胸がきゅっとなり、顔がわずかに汗ばむのを感じた。
親指の背で押すと、最後の衣服は、少しずつずり下がっていき、あるところで、踝まですとんと落ちた。若い少女の美しい腰周りが丸出しになった。
お尻から腿の裏にかけて、張り付いた汗が蒸発して、肌をくすぐる。鏡には一糸纏わぬ姿が映し出されている。
少女は、シャツやジーンズの下に、一切の下着を身につけていなかった。 空っぽの浴槽にぺたんと座り、頭からシャワーを被るようにしながら、お湯を溜めていく。体を暖めながら、少女は思い返していた。
悪夢の一日を。
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